河村陽介の「君に…」

心の師への強い哀悼

織田廣喜美術館では、織田が描いた代表シリーズとして帽子をかぶった「少女」の絵が数多く収蔵されているが、もう一枚、別の作者によって描かれた「少女」の絵が存在する。

一筆一筆、丁寧に、丹念に描き込まれた赤い帽子の少女。愛らしい輝いた瞳で、真っすぐに前を見つめ、静かにほほ笑んでいる。

描いたのは、宮若市出身の画家・河村陽介さん(28)。彼は、大学卒業後の一時期、当館で働いたことがきっかけで織田廣喜を知り、その生き方と独特な表現、幻想的な絵の世界に魅せられた。以来、織田を心の師と尊敬し、織田のような画家になりたいと制作活動を続けている。

お気に入りの織田廣喜の「少女」の絵を見つめる河村陽介さん

お気に入りの織田廣喜の「少女」の絵を見つめる河村陽介さん

「君に…」という題名が付けられたこの少女の絵は、2012年5月に98歳で他界した織田廣喜への哀悼の意が込められている。織田の「赤い帽子の少女」の絵に影響を受けて制作を開始し、同年に織田廣喜美術館で開催した第10回嘉飯山の画家たち展に出品された。幼稚園のころから絵を描くことが好きで、九州産業大学美術学科に進み、本格的に絵を学んだ河村さんだが、この少女の絵は、いろいろと考えすぎ、最初はうまくいかなかったという。

「もう難しいことは考えず、素直に描こう」

一点一点心を込め、無我夢中で描き、2週間かけて描きあげた愛らしい少女は、まるで織田廣喜が力を貸してくれたのではないかと思うほど、河村さん自身もびっくりする素晴らしい作品になった。自分の人生を変えてくれた織田にささげるために描き、自ら最高傑作と語るこの絵は、河村さんの強い希望により、織田廣喜美術館に寄贈され、現在は収蔵庫で大切に保管されている。

織田廣喜への強い羨望(せんぼう)と絵に対する情熱。尊敬する師と同じように、故郷である筑豊に作品を残し、絵を通して自分が死んだ後も未来の人たちと会話がしたいという河村さんの思い。いろいろな感情を巻き込みながら描かれた少女は、美しいまなざしでわれわれに語りかけてくる。これから先、この少女はどんな人と出会って、どんな会話をするのだろうか。

人も物も、この世に生み出され、さまざまな出会いを経験し、いろいろな道を進みながら、必ず落ち着くべきところがあるのだろう。河村さんの少女の絵も他の収蔵作品も、必然的に生み出され、何かに導かれるかのように美術館にたどり着いた。美術館の収蔵庫には、そんな作品たちが数多く眠っている。

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12月10日(土)から来年1月29日(日)まで、織田廣喜美術館で第2回逸品もちより展を開く。「筑豊美術館ネットワーク」を構成する織田廣喜美術館、直方谷尾美術館、田川市美術館が、それぞれ自慢の所蔵品を持ち寄り、普段は同じ空間に並ぶことのない作品を一堂に展示。河村さんの「君に…」も披露する。

(織田廣喜美術館・藤嶋芳絵)

*西日本新聞朝刊 「美術館モノがたり 筑豊3館収蔵品から」平成28年11月26日(土)掲載分

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