織田廣喜「嘉穂劇場内桟敷」

想像膨らむ人物描写

嘉麻市の「嘉」の字を説明する際、嘉穂劇場の「嘉」と説明します。嘉穂劇場は筑豊の人なら誰もが知っており、全国的にも高い知名度を獲得している名所ではないでしょうか。嘉穂劇場は、前身となる中座が開場した1921(大正10)年からの歴史を誇り、現在に至るまでに全焼や台風による倒壊、そして近年では飯塚市などに大きな被害をもたらした2003年の豪雨など、度重なる災難にも負けず、幾度も再起を果たしてきた九州を代表する芝居小屋です。

2003年の豪雨被害から復旧後の嘉穂劇場(嘉穂劇場ホームページから)

そんな嘉穂劇場を、筑豊で生まれ育った画家織田廣喜(1914~2012)も描いています。当館は嘉穂劇場を描いた作品を2点収蔵していますが、その中の「嘉穂劇場内桟敷」という作品を紹介します。

作品について簡単に説明すると、金色の重厚感のある額縁に、歌舞伎の舞台を観覧する人物などの劇場内の様子を描いたものとなっています。

では、少し丁寧に見ていきましょう。舞台上には花魁(おいらん)のような着物を身に着けた人物が目を引きますが、じっくり見るとさまざまな人が描かれています。画面手前は桟敷席でしょう。オペラグラスで舞台を見ている女性は子ども連れのようです。画面中央には嘉穂劇場のはんてんを着て、せっせと座布団配りにいそしむ人がいます。

そんな中、私のお気に入りは舞台の端で太鼓のようなものをたたいている人です。これは柝(き)と呼ばれる歌舞伎で音を立てる拍子木を使用している人を描いています。その人物の腕の形に注目です。あのスナップを利かせた柔らかな腕使い。これこそ織田廣喜の描く人物の腕によく見られる特徴です。うねうねとした腕が不思議な躍動感を与えてくれます。数ある織田の絵の中でも、人物が多く描かれた作品は見どころがたくさんあり、想像を膨らませることができるため、鑑賞者をとても楽しませてくれます。

また絵をよく見てみましょう。さっと線だけで描かれた人物が多い中、少し細かく描かれている人物がいます。画面左手の桟敷席です。他の人物よりも細かく描かれた人物が5人ほど並んで観劇しています。その人物は当時の碓井町(現嘉麻市)の町長と織田廣喜美術館の館長らを描いたとされています。故郷の名所である嘉穂劇場を描く際に、お世話になった方々をこっそり絵に盛り込む。織田の心意気を感じるすてきな作品ではないでしょうか。

今回紹介した「嘉穂劇場内桟敷」は、嘉麻市立織田廣喜美術館、直方谷尾美術館、田川市美術館の3館の収蔵作品から、えりすぐりの名品を持ち寄って展示する「第3回逸品もちより展」(27日~3月18日、直方谷尾美術館)で展示されます。

(織田廣喜美術館・三戸丈治)

2018年1月13日土曜日 西日本新聞筑豊版朝刊「美術館モノがたり」掲載

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