陶芸家 馬場 慎市さん(49) =嘉麻市

出会いに感謝し創作

 

工房で掻き落としの作業をする馬場さん

工房で掻き落としの作業をする馬場さん

 



田園が黄金色に輝き、実りの秋の訪れを告げていた。稲穂を揺らす爽やかな風に誘われて向かったのは、馬場慎市さんの工房、待音(まちね)窯である。馬場さんは、まるで旧知のように、温かく出迎えてくれた。工房の隣にあるギャラリーでは、馬場さんの作る温かみのある粉引きの器や、素朴で味わい深い焼き締めの器が美しく生けられた季節の植物とともに並んでいた。

無題(2015年)

無題(2015年)

そこでは、いつも馬場さんのところに器を買いに来るという2人の女性客と、馬場さんの奥さんが談笑をしていた。話を聞けば、馬場さんの器は使い勝手が良く、毎日食卓に並ぶ。人にもつい薦めたくなるのだという。すると、奥さんは「待音窯の器の、一番のファンは私よ」と声を大にした。

使った人を魅了してやまない器は、軟らかい粘土を使って生み出される。煙でいぶすように焼き、土の動きを見極めながら、土本来の色を大事にして焼かれた器は、その存在一つで、花や料理を引き立てる。土と真剣に向き合う馬場さんだからできる器である。

馬場さんは、佐賀県有田町で生まれた。小学生のころから、ものづくりに興味を持ち、当時は宮大工になりたかったという。高校を卒業後、大阪で7年間一般企業に就職していたが、そこでは同じことを繰り返す毎日。「このままでは、流されて、ただ何となく生きてしまう」と思い、24歳の時に仕事を辞め、故郷に戻る。故郷の特産品である有田焼に興味を持ち、作陶について学ぶため、1年間職業訓練校に通った。

その後、佐賀県嬉野市の陶芸家である野村淳二氏に師事し、そこで、作陶の技術だけでなく、トイレ掃除の仕方や、人との交わり方、職人としての心意気を学んだ。「愛される焼き物屋さんには、技術だけではなれない。心にも汗をかきなさい」という師の教えを胸に、良い土を探し、試行錯誤しながら、愛される焼き物屋さんになるために、作陶に励む。

知人に導かれ、嘉麻市に来たのは15年前。もともと庄屋だった家を改築し、窯を開いた。物を生み出すとは、命を削るということ。いわば自分の分身ともいえる器を通して多くの人々と出会った。その人々への感謝を忘れずに、これからも創作していきたいと語る。

季節は確かに移りゆく。人も、器も、形のあるものは、いつかは必ずこの世からなくなってしまう。だからこそ、限りある時間の中で、出会って共に過ごした証しを、大事に胸に刻まなければならないのだ。一人の匠(たくみ)の魂が宿る器に触れたとき、そんな思いが込み上げてきた。

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待音窯の秋の窯開きが11月21~29日に開催される。

待音窯(嘉麻市桑野2190)=0948(57)0997。

(織田廣喜美術館・藤嶋芳絵)

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