松永鶴雲「文字の美」

力強く余白も美しく

「文字の美」(墨、紙)

共感覚という言葉がある。一つの刺激から、他の複数の知覚が無意識に引き起こされる知覚現象のことをいう。例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりするそうだ。レオナルド・ダビンチやモーツァルトも共感覚を持っていたらしい。もしこの感覚が自分にあったら、世界はどんな風にみえるのだろうか。

今回紹介するのは、織田廣喜美術館の収蔵品では数が少ない書の作品のうちの一つである。制作者は、書家の松永鶴雲さん。本名は隆。1932年、東京都港区で生まれた。弟はグラフィックデザイナーの松永真さんである。

書家だった父の影響で、幼少期より書を始めた松永さんは、45年に大空襲があった東京を逃れて、父の親戚が住んでいた田川に家族で移住した。

現代書道の巨匠と呼ばれる村上三島(むらかみさんとう)に師事し、62年には、日展に初入選。以後特選2回。76年に日本書芸院展大賞、83年に毎日書道展日本書展賞など数多くの賞を受賞し、古典を踏まえた本格的な漢字書家として大きな業績を重ね、2001年には福岡県文化賞も受賞している。

織田廣喜美術館で近作展を開催した時の松永鶴雲さん

 

また、日本書芸院常任理事、長興会常任理事、西部朝日書道展運営副委員長、西日本書美術協会総務理事などを歴任。田川のみならず九州の書道文化興隆にも大きな功績を残して、05年に73歳で亡くなった。

今回の「文字の美」は、96年に開催された第27回日展に出品した作品であり、98年に当館で開催した「郷土作家 松永鶴雲近作展」でも楷書、行書、草書などの他の作品と共に展示され、その後、本人から寄贈されたものである。当時を知る職員によれば、松永さんは弟子には厳しくしていたが、職員に対してはすごく優しかったそうだ。「文字から音を感じ音より色を観たいそして自然の美に迫りたい」と書かれている。

一文字一文字が力強く迫力があり、墨の色や余白さえ美しい。松永さんも共感覚を得たいと思っていたのだろうか。そうして、より強く、より深く世界を感じ、理解し、さらに良い作品を作りたいと願っていたのかもしれない。とにかく書を愛していたという松永さんの面影がしのばれる作品である。

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織田廣喜美術館では、県展書部門を19日まで開催中。公募の入賞作品、筑豊地区からの入選作品や、福岡県美術協会員の入賞作品、筑豊地区の会員作品を展示。19日の午後2時からは会員による合評会も行われる。

(織田廣喜美術館・藤嶋芳絵)

*西日本新聞朝刊 「美術館モノがたり 筑豊3館収蔵品から」平成29年11月18日(土)掲載分

 

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