画家 伊藤克広さん(56)=直方市

子どもと関わる中で

伊藤克広さんは、長年続けていた美術公募団体展「行動展」への出品を、2011年、福岡市美術館で開かれた九州巡回展を最後にやめた。行動展には勉強のため出品し始め、受賞を重ねて会員にもなった。ところが「自分の思いがストレートに表現できていない」という思いが常につきまとっていた。自分にとってうそのない、つくり事のない表現」を突き詰めていくのに、そこから距離を置く必要があると感じた。

同じ年の同じ時期、同じ福岡市美術館で個展を開いた。出品したのは、行動展で出していた隅々まで描きこんだ絵ではなく、キャンバスの地があらわになるような薄塗りの絵。「自分にとって何が必要か。他者と何をもってつながっていけばよいのか」。模索し描いた絵だった。

伊藤さんは県内の中学校で美術を教えてきた。絵を描いたり、見たりするとき、伊藤さんの中の大事な基準となる考え方は、教員として学んだところが大きい。

教員になって4年目、赴任した中学校で、たくさんの課題を抱えた子どもたちの対応などに長年携わってきた先輩教員と出会った。その先輩教員の勧めで教育臨床を学ぶようになった。学ぶたびに、人間の生き方、人が背負っているもの、社会的規範、心の視点、親子関係、人格形成などさまざまな角度から多くのことを考えさせられた。その後、伊藤さんは子どもたちの課題に深く関わるようになり、今もそれは変わらない。

「絵を描くということは、自分にとってどういうことなのか」。一生懸命に生きる子どもたちと関わる中で、自分が描くべきことがあるのではないかと思うようになった。「命とか、生きるとか、自分の中で透明で澄んだ部分、そしてリアリティがある部分が見つけられればいい」。

そんな思いでキャンバスに向かうが、あまりつくりこむと、大事なものが失われるように感じた。「見せかけはもういい」。作為的、受け狙い、つくり事、そんな要素が見えたときは描いたものを消してしまう。「自分が生きていること、毎日感じている事が自分の作品と直結」するように筆を動かす。

「CORE」(2010年、作家蔵)

「CORE」(2010年、作家蔵)

「CORE」は、高さ約2mの大きな絵。画面中央に黒い塊が描かれている。「みんな形は違うけれど、躍動している心の塊みたいなものがある。生育歴の中で、いびつであったりするけれど、一生懸命もがきながら生きている子どもたちを見ていると、それがとてもきれいだと思う。この作品は、中心みたいなものが共鳴し合うイメージ。子どもたちに、自分の中心みたいなものに気付いてほしいなという願いがあって…」。

「全ては愛情だと思う」。伊藤さんは取材の最後にこういうと、次のように続けた。

「絵の前に立った時、よろいを脱いで素直になってくれるような絵を描きたいですね。あぁ、ゆがんでいてもいいんだ、といって美術館を出られるようなね。」

×   ×

「CORE」は直方谷尾美術館に9月23日まで展示。

(直方谷尾美術館・中込潤)

*西日本新聞筑豊版「情熱の磁場」 平成27年8月1日掲載分

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